「昨日学会でね、最新の発表があったのよ。猿やチンパンジーにはアルツハイマー病はないんですって!」「アフリカに癌患者が皆無なのをみても、我々現代人と言うのは、精神をすっかり病んでしまっているのよね。。」京都グラフィーを毎年観にいらしていると言う、ある一人のお客さまがイザベル・ムニョスの展示を回想しながらぽつりとおっしゃった。
イザベル・ムニョスは、ヨーロッパを代表するスペインの女性写真家である。
今回、誉田屋源兵衛 黒蔵会場で、人間とDNAが同じゴリラの表情を写した「Family Album」、世界各国の狂信的な宗教儀式を追及した「Love and Ecstasy」などを展示しつつ根源的な愛について探求している。
この展示は、写真もさることながらテキストの内容が充実しており、人間について深く考えさせられてしまう。テキストは、キュレーターでもあるフランソワ・シュヴエル、そして京都大学総長の山極壽一氏によるもの。
山極氏曰く、
「類人猿の見つめるまなざしから、彼らの抱えるかすかな闇が感じられる。
人間の目との大きな違いは、彼らの目に白目の部分が欠けていることだ。
白目があれば、視線の向きがはっきりして、意思が感じられる。類人猿の真っ黒な目からは、出会った出来事をひたむきに受け入れようとする直接的な感情が伝わってくる。そこに、人間のような下心は感じられない。しかし、そこには目にしている現状へのかすかな不安が潜んでいる。その不安が過激な愛によって怪物に変貌したとき、人間は白目を持ったしたたかな視線を獲得したのではないだろうか。」
KYOTO GRAPHIE 5周年特別寄稿より抜粋