古代の人々は強い木霊の宿る草木を薬草として用い、その薬草で染めた衣服をまとって、悪霊から身を守った。まず火に誠を尽し、よい土、よい金気、素直な水をもって、命ある美しい色を染めた。すなわち、よい染色は、木、火、土、金、水の五行内にあり、いずれも天地の根源より色の命をいただいたというわけである。-「色を奏でる」志村ふくみ- より
志村ふくみは、草木の自然染料で糸を染め、手機で独自の作品の数々を生み出す人間国宝の染織家であり、友人〇さんが愛してやまない稀有の人であった。
今回、京都アサヒビール大山崎山荘美術館で作品のあゆみを辿る企画展が有ったので足を運んでみた。
志村ふくみの作品は、一見するととてもシンプルだ。そのシンプルな中に、草木たち(自然)の受け継がれてきた時間と生命力が刻まれているようでもあり、個でありながら、個を超越した遠い時間的広がりがあるようにも見えてしまう。それは太古から変わることの無い波の姿のようでもあり、鬱蒼と草木の茂った森の記憶のようでもあり・・そう、冬に新しい息吹を待つ凛とした木々の佇まいのようでもある。
ながめていても全く飽きの来ない繊細な美しさは、織物でありながら、ともすると、この地と対話しているかの様な親密な時間、そして自然界の吐息を掬いとったかのような作品。
展示会場も素晴らしかった。 初めて足を運んだ大山崎美術館はニッカウイスキーの出資者であった実業家、加賀正太郎(1888-1954)が自ら設計した英国風別荘であり、景観、内装、インテリアに至るまで加賀氏のセンス、拘りを随所に見ることが出来る。この邸宅は、かの夏目漱石に命名まで依頼するものの、結局使用しないと言う加賀氏の頑固振り?も伺える。平成になり一度取壊しの危機も有ったようで、壊されなくて本当に良かったと思う。
志村ふくみ -源泉をたどる------
会期: 2015年3月15日まで(10:00〜17:00 最終入館16:30)
アサヒビール 大山崎山荘美術館
〒618-0071 京都府乙訓群大山崎町銭原5-3
Tel 075-957-3123