花巻の山間で迎える朝はとても寒い。
ともすると何をする気も起きなくなってしまいそう。
ある日のこと。朝早く一人温泉に入ろうと浴場へと向かうと、腰の曲がったかわいらしいおばあさんが入ってきた。
おばあさんは人を惹きつける綺麗な瞳と何ともいえない気配のようなものを感じる人だった。
どうも宿泊客ではなさそうなので少し話しかけてみた。
おばあさんの話によると、ここの温泉は600年前から湧き出ていて、白いお猿さんが怪我を癒す為に発見したものとの事だった。
そういえば宿の温泉の一角に、お猿の神様が祀られている。
その隣には小さな龍の女神さまも。(この龍の神様は蛇の神様でもあるという)
そして付け加えるように、「ここには神様が居て、みんなみてるから悪い事は出来ないよ。」と。
その神様は女性の不浄を特に嫌うらしい。
地元の女性達は、温泉を訪れる際に、その日が”女性の不浄日”に当たらないかどうか考えて来られるそう。
温泉は100パーセント源泉かけ流しで、一度つかるとじんわりと体の内部にぬくもりが浸み込み、人々をゆったりと包み込む。
ちなみに此処はシャワーも源泉を使っているらしく、先ほどのおばあさんは、すっかり水道のお水が苦手になってしまったと話されていた。他の温泉に行きたいならば、先にそちらへ足を運んで最後にこちらへ帰っていらっしゃい、との事だった。
私自身、ゆっくりつかる温泉はもともと苦手なのに、ここの温泉はゆっくりつかる事ができ、不思議と時間もゆったり過ぎていく。
露天風呂から外の小川をぼーっと眺めるのがすきで、しかも一人が好きなので、気合を入れて入るのは、いつも早朝。(笑)
ちなみに、そのおばあさんは、有名な”売店のおばあさん”である事を後日知る。
嫁いでからずっと温泉と寄り添ってきた旅館のおばあさんだった。