八月の後半は、レンタル暗室の割引もあり暗室に通っていた。
夏のレンタル暗室は涼しくてなかなか良いけれど気付かないうちに体力を使うのか日々ヘトヘトに。
そんな中で一つ貴重な体験をした。
それはたまたま暗室の隣にあるギャラリーの展示が
鬼海弘雄「アナトリア」だった事。
暗室作業に疲れると鬼海さんのプリントをぼんやり観に行っていた。
鬼海さんの写真は、特に新しい構図や視点とかインパクトとかが強烈にあるわけではなく、淡々とトルコのアナトリア地方が写されていた。
写っている風景も日常で普通に目にしそうな一瞬ばかりで、ほんのりとした第一印象。
プリントは東京ではあまり見かけないグレーゾーンを物凄く大切にした繊細で美しいプリント。
だだ、本当に凄いと思ったのは最終日なのかもしれない。
と言うのは、写真を観ていて全く飽きない。
それどころか観れば見るほど行ってないはずの「アナトリア」に惹きこまれてしまう。
あの世界、あのグレーゾーンに浸かりたくなってしまう。
村の人は私に話しかけてくれ風の音や砂や樹の囁きまで聞こえてくるよう。
このままこの世界の中で生きてみたいとまで思いつめてしまえる清らかさと美しさがある。
こんな写真があったのか・・と思う。
今まで同じ展示を何回か観た事は有っても、見るたびにどんどん引き込まれてどんどん好きになって行く経験は私にとって殆ど無かったような気がする。
観れば観るほど心の底から好きになる。
時間と空間を越えた世界がすっと目の前に広がり私を旅に出してくれる。
本当に不思議で美しい写真だと思った。