伊賦夜坂(黄泉比良坂)
いふやざか、そこは子供の頃の記憶のある断片だけが蘇ってくるような場所だった。
そこは揖屋神社からさらに歩くこと15分くらいの距離のようなので早速歩くことに。
麓らしき所まで来ると、国道の脇に昔ながらの集落があり、道は更に奥へと続いているようだった。
暫くして左側に民家と共に小さな水田の名残りが現れる。
水田の畦道のような獣道のような道が森の方にかろうじて繋がっていて、民家の壁に「伊賦夜坂(黄泉比良坂)」と看板はあるものの、無ければただの獣道かもしれない。
荒廃した水田と道は雪に覆われ”来ないで”と拒否しているようにも見えた。
靴は雪でぐしゃぐしゃになりそうではあったけど、とりあえず行ってみることに。
道を進んでいくと本当に森にしか出会えないようで・・この景色を見ていると子供の頃森を散策した感覚が急に蘇って来る気がした。
森や草木とは言葉は交わせなくても話しているような一体感。
更に進んでいくと左側に小さな溜め池があるくらいで何も無い、ただの森。
入り口から徒歩5分くらいで伊賦夜坂(黄泉比良坂)だとパンフレットには書いてあるのだけど、一向に気配もない。ただただ昔の感覚だけが蘇ってくる。
そのまま森に入ってしまうのも悪くないと思いつつ緩やかな坂道を歩いていくと、右側に沼が見えてきて氷つきそうな水面の下鯉たちが数匹身を寄せ合って泳いでいた。
そのふもとにひっそりと伊賦夜坂(黄泉比良坂)の石碑がある。
とても静かな場所だった。
日頃の喧騒が嘘のように、ただ森の冷気と風の音、草木の音があるだけの場所。