昔、とても好きな人がいた。
いつも斬新な服を大胆に着こなしている人だった。
しぐさの一つ一つがスマートに見える人だった。
独特のオーラがありとても華のある人だった。
ただ・・何だろう。
何かが引っかかってしまう・・。
何だろう・・?
華やかそうに見えて翳があるように感じた。
笑顔に寂しさがあった。
友達に囲まれながらもにぎやかさを感じなかった。
気のせいなのかもしれないと思った。
そんなある日、初めて彼の部屋に遊びに行く事になった。
私はとても緊張したと同時に、勝手に派手でセンスのいい部屋を想像してしまっていた・・。
かなりドキドキしながら部屋に向かった。
しかし部屋は私の想像を全く裏切った。
本当に何も無いシンプルな部屋・・・・。
シンプルなベットとTV、シャツが数枚掛けてあるだけのハンガー。
部屋の隅にカエルの形をしたアメリカ製の受話器がぽつんとあった。
受話器は長いコードでつながれていて物が無い分余計に目立った。
灰皿があった。
本当に必要な最小限のものしか存在しない部屋だった。
そのままスーツケースに物をつめて旅に行けそうな気がした。
無機質な感じの薄暗い部屋にタバコの匂いが染み付いていた。
そんな彼がみせてくれた映像の一つにMジャクソンの動画があった。
映像を見つめる彼は特に興奮するでもなく、最後に淡々と一言「すごいね。」と。
後から彼の話をぽつりぽつりと聞いた。
ぽつり、ぽつりがすべてを物語っていたような気がした。
初めて孤独な男の人を知った。
彼は、もっと遠くをみつめていたのかもしれない。